超短編『電波』

 テレビで夏の怪談特集が放送されるという。
 それを知った一週間前から楽しみで、放送の一時間も前からテレビの前に陣取った。深夜の放送だから、うっかり寝てしまっても大丈夫なように録画予約も万全だ。
 暑い夜だったが、冷房も扇風機も切り、家中の窓を開け放った。その方が、怪談番組を見るのにふさわしいような気がしたのだ。
 お茶や、タオル、うちわも用意した。
 テレビのリモコンを探すが見つからない。テレビから、ニュースを読み上げる声がしている。顔を上げると、テレビには見覚えのあるアナウンサーが映っていた。
「あ、さっき点けたんだっけ?」
 答えてくれる人はいないが、思わずつぶやく。リモコンを探すのをやめて、ニュースを聞く。このニュースが終わったら、目的の番組が始まるのだ。
 真夏日の今日は各地で水の事故が多発。熱中症で救急搬送された人もたくさんいたらしい。
 お盆休みで帰省していた人のUターンラッシュ、強盗事件、殺人事件、交通事故、祭の話題、高校野球などのニュースを見ているうちに、いつの間にか怪談特集の番組が始まる時間を過ぎている。
 チャンネルを間違えていたのだろうか。慌ててリモコンを探すが、やはり見当たらない。
 仕方なくテレビ本体のスイッチでチャンネルを変えようと立ち上がる。
 顔を上げてみると、テレビは点いていなかった。ビデオデッキを見ると、録画中になっている。
 テレビ本体を操作して電源を点けると、楽しみにしていた怪談特集が始まっていた。
 けれど、どうも落ち着かない。楽しみにしていたのに、番組に集中できない。
 あのアナウンサーは、現役のアナウンサーなのか。あのニュースは、いつのニュースなのか。
 番組が終わってからすぐにテープを巻き戻し、頭から再生してみたが、怪談特集の番組がきちんと最初から録画されているだけだった。



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というわけで、間もなく始まりますよ。

日本怪談百物語 2009/08/15 24:35―28:00 NHK総合

江戸時代より伝わる、怪談の伝統式スタイル「百物語」。百の話を語り終えた時、本物の怪が現れるという。個性豊かな10人の語り手たちが、百の怪談を語りついでいく。
10人の語り手は、一龍齋貞水(講談師・人間国宝)、加賀美幸子フリーアナウンサー)、蟹江敬三(俳優)、小倉久寛(俳優)、緒方恵美(声優)、国生さゆり(女優)、松下由樹(女優)、山崎バニラ活動弁士)、半田健人(俳優)、溝口琢矢(俳優)。10人はそれぞれ趣向を凝らしながら、個性的な語りを披露する。「四谷怪談」「雪女」「耳なし芳一のはなし」など、2人がペアを組み、朗読芝居の趣をなすものもお送りする。
出演
【朗読】一龍斎貞水加賀美幸子蟹江敬三小倉久寛緒方恵美国生さゆり松下由樹山崎バニラ半田健人溝口琢矢