2007-04-01から1ヶ月間の記事一覧

超短編『小石』

かつて、鳥撃ちの猟師だった祖父から、鴨鍋の話をよく聞かされた。 自分で撃った鴨を捌いて鴨鍋を作ったそうだ。散弾銃で撃つから、稀に小さな鉛の弾が取り切れずに残っていて、鴨肉を噛み締めた時にガリッと噛んでしまうことがあったという。 もう随分昔に…

超短編『藁祭り』

藁祭りの間中、いちいちと藁束を叩き付けてざんざん鳴らし、辺りには藁屑が舞い散っている。 誰も彼もがそうするので、空気はどこも藁の匂いで満ちている。 藁の匂いというのは別段嗅いだこともないものだったが、稲刈りの後でずっと日に当てているものだか…

超短編『街灯』

夜道、ふと足を止めて頭上の街灯を見上げると、三日月を二つ並べたようなニヤリ笑いの目と視線がぶつかる。 そのまま何事も無かったように歩き出したが、それきり空を見上げられない。

超短編『チョコ痕』(500文字の心臓参加作品)

前から高校生らしき男の子が二人、歩いて来る。特に聞こうと思ったわけではなかったが、会話は開けっぴろげで筒抜けだ。 「やっぱりお前、もらってたんじゃねーかよ」 一方の背の高い子が真面目そうな眼鏡の子に笑いながら、ふざけた口調でそう言う。けれど…

超短編『夜桜』

夜桜を見ようと川沿いの桜並木を歩く。夜の中、ざわめくような花の色が浮き上がっている。 一際闇に際立って美しく、なまめかしいほどに白い花をつけた樹があったので近付いて行くと、花と見えたものがみな小さな手のひらである。 遠目には花にしか見えなか…