2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

超短編『かつての』

住み慣れた街を離れ、何年か経った頃にふと、かつて住み慣れた街へと足を運んだ。 かつて恋人だった人、かつて親友だった人、かつて顔見知りだった人、かつて隣人だった人と再会を果たす。 みな、再会を喜んでくれ、不義理だった己を恥じた。 しかし世界は不…

超短編『見張り』

見張り台には交代で、当番の雀が立っている。 二番目の見張り台の雀と常に状況を知らせ合い、変化があれば、裏庭でがやがやしている仲間に知らせる手筈になっている。

超短編『ミジンコの神様』

ベランダに小さな睡蓮鉢を置き、水を張る。翌日赤玉土を浅く敷いた。 よく乾いた赤玉土は、水に入れる時にまるで焼け石が水に落ちたような、じゅうという音がした。焼け石が立てる音よりはずいぶん小さかったのだが。 赤玉土を敷いた翌日には、未草を植えた…

超短編『悲鳴』

ある年、新入社員が入社したばかりの頃だった。社内で火災警報の誤報が四日連続で起こった。 警報のベルの音が、少し歪んで、まるでけたたましい悲鳴のようだったので、これは火災報知器が壊れたのだろうということで、二日目に全てを点検。異常が見つけられ…

超短編『いじわる』

君がよく笑っているのは、笑っている間は口をきかなくてもすむからだよね。 そんなに笑っていると、犬草の種が飛んで来て、君の開いた口の中で発芽して、その艶かしい舌に根付いて、そして、そしてね。 そこまで話すと、君は笑うのをやめた。 そして、鞄から…