超短編『ミジンコの神様』
ベランダに小さな睡蓮鉢を置き、水を張る。翌日赤玉土を浅く敷いた。
よく乾いた赤玉土は、水に入れる時にまるで焼け石が水に落ちたような、じゅうという音がした。焼け石が立てる音よりはずいぶん小さかったのだが。
赤玉土を敷いた翌日には、未草を植えた小さな鉢を、睡蓮鉢へ入れる。入れた鉢の周りにさらに赤玉土を入れて、鉢が半ば埋まるように平らにならす。
土の濁りが静まるまでそっとしておく。
日の当たる場所へ出しておいたら、いつの間にか微生物が生まれた。
どうやらミジンコのようだ。
翌日メダカを買ってきて入れようと思っていたら、その晩の夢にミジンコの神だと名乗るミジンコが出てきて、メダカを放つのは思いとどまるようにと、あぶくのような声で言う。
だからという訳ではないが、翌日は悪天候のせいもあって、メダカを買いには行かなかった。
すると、その晩の夢にまたミジンコの神だと名乗るミジンコが出てきて、素直で信心深いと誉められた。
褒美に、繁栄をもたらしてくれると言う。
ミジンコの神様の告げた通り、睡蓮鉢の未草は毎年見事に花を咲かせ種を増やし、今では睡蓮鉢が五つにもなった。
もちろん、その鉢のすべてにミジンコも住んでいる。