超短編『かつての』

 住み慣れた街を離れ、何年か経った頃にふと、かつて住み慣れた街へと足を運んだ。
 かつて恋人だった人、かつて親友だった人、かつて顔見知りだった人、かつて隣人だった人と再会を果たす。
 みな、再会を喜んでくれ、不義理だった己を恥じた。
 しかし世界は不安定で、懐かしい屋上でフェンス越しに空を見ていると、戦闘機が飛んできて、街を破壊し始める。
 屋上にもそれはやって来て、そして瞬く間に蹂躙して飛び去って行く。
 かつて隣人だった人、かつて顔見知りだった人、かつて親友だった人、かつて恋人だった人は、次々とお別れを述べて去って行く。
 仕方なく、かつて住み慣れた街を去り、住み慣れつつある街へと帰る。
 そこが本当に帰るべき場所であるのか疑いながら。