超短編『音』

 深夜の、ささやかな物音が気になって、なかなか寝付けない時があります。
 例えば、冷蔵庫のモーターの唸る音であったり、時計の秒針がこつりこつりと回る音であったり。
 とりたてて気になるのが、正体の知れぬものの足音。
 台所の方から、と、とと、とて、とつ。小さな小さな音なのです。
 さぐりさぐり、といった様子で、たどたどしく。
 鼠か何かでしょうか。
 けれど、ただの一度も台所を荒らされたことはありません。
 その足音に耳をそばだてているうちに、いつの間にか寝入ってしまうらしく、気づくと朝になっております。
 何がいるのか、まだ確かめたことはありません。