短編『まどいまつ』

今日は遊山の日だと言って、ヒロさんが来た。
一人で話したいだけ話すと帰って行くので、黙って話を聞く。


間問い松は本当にあるらしいよ。
先日、田舎に帰省した時、祖父が言っていた。
なんでも羽衣松の四倍も五倍も背丈があって、天辺は見えなかったというんだから余程高い。
羽衣松が分からないって、ほら、静岡だかにあるじゃないか。
天女が身に着けている羽衣、あれをかけていたっていう松だよ。
それはいいよ。今は間問い松の話だ。


幹も、見栄えのいいものじゃなかったと言うね。
ひょろひょろとまではいかないけどね、細くて、時々曲がりながらずーっと上まで伸びていたそうだよ。
そのずーっと上の方にようやく枝が分かれていて、じっと目を凝らすと葉もついている。
どんなものかと思ったが、やあ普通より背が高いこと以外はただの松と変わらないもんだな。
そう呟いて、祖父は真上を見上げるのをやめようとした。
その時、橋が見えたらしい。
松と、どこかに繋がっている橋だよ。
それを見た祖父は、間問い松には橋が架かっている。惑い橋だと直感した。
渡ると戻って来られない橋だよ。
間問い松は惑い松さ。惑い待つってことでもあるよ。
どこかで待ち合わせして、相手がなかなか現われない時なんか、一番危ない。
うっかり間問い松に登って、橋を渡りかねないな。
キミも気をつけておいた方がいい。わかったかい。
じゃあまたね。


ヒロさんはその言葉を最後に、来た時と同様、唐突に帰って行った。
そんなに背が高い松になんか、見かけたっておいそれとは登れないだろう。
そもそもヒロさんが何者なのかを、私は未だに知らない。