超短編『ある朝』

自分の存在がなんだかやけに希薄になってきた。
良い意味で何者でもないといった感じだ。
そこで電車に乗り、かつて住んでいた土地へ戻る。
山と海とが隣接し、人はそのどちらにも住まう土地だ。
迷わず山中に分け入ると、日当たりと見晴らしの良い場所を探して歩き回った。
山頂付近に程度の良い場所を見つけたので、そこを自分の居場所に決めた。


先ほど山を登って来て、吹きすぎる風が気持ち良いと言って伸びをしている、あなたの隣に立っている木が私だ。