超短編『雨』

やたらと雨が馨るので、辺りを見回して得心がいく。
春雨に、しとしとと滲んだ藤の木が、
なんとも優美に佇んでいる。
雨水を受けるたび、しずくの落ちるたび、
小さく身震いする、清楚な薄紫色の花。
花弁を伝って落ちてくる、そのしずくを、
こっそり舌先で受け止める。
濃い薫りに、頭の芯がくらりとして目を閉じる。
目を開いた正面に、しゃんと女が立っていて、
いたずらを見つけた母親のように微笑んでいる。
驚いて瞬きをしてみれば、
ただ、春の雨に煙る、藤の花があるばかり。