超短編『遠雷』

ゆらゆらと、道は左右に曲がりくねる。
まるで海沿いの道のように、視界の開けた左手側に広がるのは、見渡す限りの稲田。
いくらか湿り気を帯びた風は遮るものなく平野を渡り、何者にも興味がないように。あるいは地に立つ物質すべてをいとしむように、ざわざわとあたりを撫でて吹きすぎて行くばかり。
どこか、ひどく遠くで低く重く雷鳴が轟いている。
風景は鈍く沈み、色彩は乏しく、まるで見えない大きな手で押さえつけられているように重苦しい。
その重苦しさを割るように、雷光がゆっくりと近づいて来る。


遠雷を待つ、この高揚を。