超短編『付箋』

昨年の初夏のことだった。
誰も気がついていないみたいだけど、あそこの角の新しいまだ誰も住んでいない家の、二階の正面の外壁に、一枚付箋が貼り付けてある。庇のすぐ下に長方形の、青い付箋だ。まっすぐ縦に貼ってあるから、きっと誰かがわざと貼ったのだろう。たぶん。
窓やベランダからは届きそうにないから、梯子をかけて登って行って貼ったのだと思う。きっと何かの印とかそんな感じで。
初めて付箋に気がついてから二日経ち、三日経ち、四日目には雨が降ったのに剥がれる様子もない。さすがに不思議になってきて、毎日二階の外壁を見るようになった。
五日経ち、六日経ち、ついに一週間が経過した日、新しい住人が引っ越して来た。
住人が引っ越してきてから一日経ち、二日経ち、また七日が経過した日、付箋が貼ってあった場所に、長旅をしてきたツバメが巣を作り始めた。住人は快くツバメを迎え入れ、見守っているようだった。通り掛かる度に自分もツバメを見守った。
無事に雛が飛べるまでになるとツバメは旅立って行った。
ツバメの子供たちが飛び回る様子に、まるでわが子のように感動したものだ。
今年は、うちの屋根のすぐ下に付箋が貼ってある。今から楽しみで仕方がない。