超短編『スクリーン・ヒーロー』
風が強く吹き荒れている。
廃墟となったシアターのスクリーンは、舞い上げられ、揺さぶられている。
映像は好き勝手に、壁や、破れたシートや、裂けて捩れた幕に投影されている。
天井はほとんどなく、曇天の重く灰色の空が見える。
あまり名の知られていない、主役を演じている俳優は、黒いスーツを着た悪者に追われている。
今、まるで嘲るように、スクリーンが上空へ舞い上がった。
主役を追いかけていた、黒いスーツの悪者が、壁面に投影されている。その壁に、上空から急降下してきたスクリーンが激突する。
その直前、追われていた主役が、黒いスーツの悪役をシートの下へ引き込み、スクリーンは再び上空へ舞い上がる。
あとはただ、誰かの口笛だけが聞こえている。
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『500文字の心臓』参加作品
○=4 ×=1