超短編『白猫』

 突然、真っ白なカーテンが風をはらんで大きく捲れた。
 教室にいるのは日直の僕だけで、驚いて椅子から転げ落ちそうになったのを見られずにすんだ。
 三階の窓からの景色は、雑木林。
 少し日が傾きかけているので、昼間は生き生きとしていた緑の木々も少し薄暗い。


 窓なんて開いていたっけ。おかしいなあ、ちゃんと閉めたはずだったのに。
 そう思って立ち上がりかけたら、カーテンの向こうに猫がいるのが見えた。


 カーテンと同じくらい白い猫だ。耳がつんとまっすぐに立っているのが印象的で、大きな目でじっとこちらを見ている。
 毛並みも顔立ちも綺麗で、思わず見とれてしまった。
 学校の敷地に猫が入り込んで来ることはそんなに珍しくないけれど、校舎の上の階まで上がってくるのは珍しい。放課後で人が少ないせいだろうか。
 また風が、カーテンを捲り上げる。
 書きかけの日誌のページがバラバラと音を立てて捲れ、そのまま煽られて机から落ちた。
 その大きな音に、思わず猫から目を離して床の上に落ちた日誌を見る。
 再び窓の方を見ると、まるで何事もなかったように、カーテンはおとなしく窓にかかっていた。
 あわてて窓辺に駆け寄り、カーテンをめくってみる。
 窓は閉まっていた。
 猫の姿はどこにもなく、窓の外の木々が、風にあおられてざわざわと音を立てているばかり。