超短編『夜町』
絶え間なく風が吹き抜ける晩だった。軒先に吊した風鈴が鳴り続けている。
窓から外をのぞけば、雲の向こうに滲んだ月が。どこかの家から赤ん坊の夜泣きの声、そしてあやす声が聞こえてくる。
夜はまだ明けず、取り残されたように眠れず、ひたすらに夜泣きの声を聞いている。
私もまた、赤ん坊の頃は夜泣きをして両親を困らせたのだという。両親は夜毎代わる代わるに私を抱いて、夜の土手を歩いた。するとじきに泣き止んで眠り、朝まではおとなしい。
あんなごうごう流れる川の音が良かったのか、今となっては定かでない。
いつの間にか夜泣きの声は止み、風の音だけが聞こえている。
風鈴はどうしたのだ、と思ったが、まるで吸い込まれるように眠気に誘われ、あとのことはよく分からない。