超短編『叩く』
夕べから、背後でずっと誰かが話し合っているような声と覚しきものが聞こえるのだ。などと、半澤が云う。
なんと云っているのだと尋ねるが、何を云っているのかよくわからぬと云う。
昨夜、百物語なぞするからだと因幡がからかうが、半澤はしきりと背後を気にしている。
その日の夕刻、また半澤に会ったので、まだ聞こえるのかと問うたら聞こえると答える。
幾分かやつれたようにも見え不憫である。元気づけてやろうと背中をバシリバシリと叩いてやった。
百物語なぞしないで早く床へ入って寝てしまえば善い。ろくに寝ないでいるから妙なものを覚えるのだ。そう云ってやった。
すると翌日、半澤に伴われた数人が、俺の背も叩いてくれ、我も我もとやって来たのには辟易した。
『日野善 日常覚え書き』より