超短編『白い布』

 暗い空からまっすぐに、白い布のようなものが落ちてきて目の前の地面にぶつかろうかというところでぴたりと静止した。
 かと思えば今度はまたまっすぐに空へ上がってゆき、しまいに見えなくなった。
 随分見ていたように思ったが、道の向こう、提灯を提げて歩いてきた人がまだ大分遠くにいるので、わずかな時間のことだったのだろう。
 すれ違い様、挨拶をしたが、何も怪しむ様子がないので、見たのは自分ひとりであったようだ。


『日野善 日常覚え書き』より