連続短編・弐『ミヤコ』

どうして死んでしまったのだろうと考えた後、どうやらまた死んでしまったらしかった。
私は死んでいる。と、ミヤコは考える。
今度は、しかしどのような原因でそうなったのか、因果関係に思い当たる節がある。
自分より大きな生き物に、どうやら喰われたのだった。
痛いとか、苦しいとか、そういう記憶はないので、一瞬の出来事だったのだろうなとミヤコは思う。
死んでいるのにどうして死んでいると判るのか、それはやはり解らない。
そもそも、生きていること自体が不可解だったので、死んでしまったとなると余計に不可解だった。
考えても無駄なことだとミヤコは勝手に納得する。
そして、今回も、何も無いのだけは確かだった。
手を伸ばして、自分の身体に触れようとしても、まず、その手がない。
目を開けて周囲を見ようにも、目がなかった。
世界は無音で、自分には身体もなく、ぽんとそこに、何も無いなと思う意識だけがあった。


気がつくと、自分を取り囲むすべては、ゆらゆらと揺らいでいた。
ほたほたと、水面が揺れている。
風が吹くので、細波立っているのだ。
風が吹けば、虫が落ちてくる。
よくよく目を凝らして、その瞬間をなるべく見落とさないようにする必要があった。
水面に何かが落ちてくるたびに、はっとそちらに目を向けるが、ほとんどが塵。
頭上からの光は面白いほど乱反射していて、それでも底の方は薄暗かった。
時折、目の前を影がよぎる。水面ではなく、本当の目の前だ。
体の向きを瞬時に変えるために、右の胸びれと尾びれを力一杯動かす。
左に旋回すると、ミジンコだったので、急いで口を開けて水ごと吸い込む。
活きの良いミジンコは僅か口の中で暴れるが、そのまますぐに飲み込んでしまった。


ああ、魚だ。


ミヤコは魚だった。
最初は人で、それから蛙だった。
人であった頃、蛙に興味がなかったように、魚にもまた興味がなかった。
見かけてもせいぜい、ああ、魚がいる。という感想ともつかないことをぽつりと思うだけ。
その、魚がミヤコである。


また水面が揺れている。
白くて薄っぺらなものが落ちてきて、頭上を覆った。口でつつくと、不思議な香りが微かに漂う。
その香りを認識した時、それにしても、一体どうして魚になっているのだろうと、魚のミヤコは一瞬考える。
白いものは、どうやら食べ物ではないようだった。食べられるもの以外に興味はない。
そして、世界はゆらゆらと揺れている。