超短編『踏切』

踏切にいつも捕まる。
渡ろうとすると、毎回、必ず遮断機が下りる。
けれど、遮断機が下りたら、一度だって無理に渡ろうとしたことはない。
電車が通過する直前まで、線路の上で手が踊るのが見えるからだ。
真っ白い細い手や、皺だらけの手、ごつい手、小さな手、美しい手。
肘から下くらいまでの長さの手が、ゆらゆらゆらゆらと踊る。
あれに捕まることを思えば、踏切に捕まる事なんてなんてこともない。


轟音を立てて電車が通過すると、手は嘘のように消える。