超短編『誕生日』

仕事が忙しいので、いつも自分の誕生日を忘れてしまう。
いつからか、誕生日当日の私が生まれた時刻になると、虚空におめでとうという文字が浮かび、私がそれに気がつくと、すうっと消える。
一体なんだ、これは。と長年思っていたが、ある年、祖母の書く文字にそっくりなことに気がついた。
よく考えると、文字が現れるようになったのは祖母の亡くなった翌年からだ。
社会人になり何年も経つが、私の誕生日を祝ってくれるのは、今ではこの文字だけである。