超短編『蜘蛛』

入浴中、何故か湯船に蜘蛛が落ちてきて、猛然と溺れている。
蜘蛛やら虫やらが大の苦手なはずの私だったけれど、あまりの必死さに思わず素手で助け上げてしまった。
蜘蛛は私の指の上で、いかにも助かったという仕草をする。
それを可愛いと思ってしまうなんてどうかしているけれど、たぶん、小さな蜘蛛だったのがお互いにとって幸いだった。
どうもありがとうと蜘蛛は言い、命を助けてもらったお礼にこれからこの家に住み込みで働きますと、更に言った。
以来、家の中に苦手な虫が跋扈することはなくなった。
ただし、風呂場の片隅に、少し大きくなった蜘蛛が住んでいる。