超短編『凪』

高い高い塔だった。
夢中で登っているうちに、とんでもなく高いところまで来てしまって、下なんか見ても塔しか見えない。
鳥も飛んでこない。
塔は白くて、青空によく映えた。
風だけが間断なく吹き、塔を抜ける時に笛のような音を立てた。
空と塔と風。
青と白と無色。
この世界には、無い。
暖かい部屋も団欒も笑い声も。凍てついた土地も戦争も殺戮も。
ひどく寂しかったけれど、少女の心は凪いだ。