2006-12-10 超短編『凪』 高い高い塔だった。 夢中で登っているうちに、とんでもなく高いところまで来てしまって、下なんか見ても塔しか見えない。 鳥も飛んでこない。 塔は白くて、青空によく映えた。 風だけが間断なく吹き、塔を抜ける時に笛のような音を立てた。 空と塔と風。 青と白と無色。 この世界には、無い。 暖かい部屋も団欒も笑い声も。凍てついた土地も戦争も殺戮も。 ひどく寂しかったけれど、少女の心は凪いだ。