超短編『格安物件』

俺の家は、家賃が安い。何しろひと月二万円。いわゆる「出る」物件だった。
何が出るって、幽霊だ。しかし、俺には見えない。見えないけれど、音や気配はする。
最初は確かに驚いた。でも、慣れてしまえばどうってことはない。
そんな態度が気にくわなかったのか、そいつはだんだん主張を強くしはじめた。


眠っていると、テレビがついた。家には、もちろん俺ひとり。おいおい勘弁してくれよ。
起き上がると、リモコンを探す。探しているうちにテレビが消えた。なんなんだよ、まったく。
また眠っていると、パソコンがついた。おいおい、今度はパソコンかよ。
起き上がって、パソコンが立ち上がるのを確認する。ベッドから降りて、マウスに手を伸ばしたところで画面が真っ暗になる。おい、ふざけるなよ。
またベッドに潜り込む。今度はなかなか寝付けない。テレビ、パソコン…次はなんだ。電気か。それとも、電話か。
考えているうちにいつの間にかうとうとしていたらしい。
ヴンという音を立てて稼働し始めたのは電子レンジ。
一体何をしようというんだ。あわてて起き上がると、おいしそうな匂い。
レンジの中ではカップケーキが出来上がりつつあった。