超短編『塊』

風邪をひき、熱が出たので、すべてを放り出して休養することにした。
眠りの中で夢を見た。熱に浮かされた奇妙な夢だ。
真っ暗だった。明かりひとつなく、周囲と呼べるような空間は見えない。その狭いとも広いともつかない空間の中心にそれはあった。
それが何なのか、私には分からなかった。
闇の中にあってなお、黒く見える何だか分からない塊。
そう、それは塊だった。巨大な長方形。
遺跡にあるような、大きな石。そんなイメージが沸く。
けれど、それほど無機な感じではない。死に切っていない。なにか禍々しいほどの存在感。
ここに居たくない、そう思った。
しかし、真っ暗で道など見えない。それどころか、気がついたらすでにここに居たのだから、道などないのかも知れない。
けれど、これは夢だ。夢なら起きればいい。起きろ起きろと念じながら目を閉じる。
ゆっくり目を開けると、真っ暗な自分の部屋だった。
部屋の中心に、真っ黒な塊がある。これがまだ夢の続きであることを願いながら私は塊を見つめた。