超短編『まりも』

北海道に旅行へ行った折、まりもを土産に連れ帰った。小さな瓶に入った、人工のまりもだそうだ。
時々水を換え、手で丸めるようにと説明書きにあったが、生来面倒臭がりの性分で、買った当初は真面目にそのようにしていたものの、いつの間にか瓶の内側にまりもではない藻がつき、すっかり中が見えなくなっていた。
これはもう、まりもの奴も無事ではすまないなと思い、瓶の水を流してまりもを取り出してみると、存外丈夫な奴で、健気に丸く綺麗な緑色をしている。そのうえ、一回り大きくなっているような気がする。
それならばと、少し大きめの瓶に移してやり、また忘れるかも知れぬが、どうせうちに来たのだからと諦めて、どうにかやり過ごして頑張れと言ってみる。
その言葉が通じたのか、もともとそういう質の生き物なのか、瓶は今年で七個目の引っ越しとなり、まりもは一センチほどだったやつが今では三センチほどになっている。未だにどういう条件で成長しているか分からぬままだが、その存在は心を和ませるのに十分である。