超短編『掛け軸』

床の間に掛けてある掛け軸を、時々後ろから押すモノが在る。
当然後ろにあるのは壁で、隠れる余地などあろうはずもない。
掛け軸は友人の描いた牡丹の花だ。
ある日ちょうど掛け軸が押されているのを見つけて、脇から覗いてみたら、壁から手が生えてそれが掛け軸を押している。
手のひらを前に出して、真っ直ぐに押していた。
思わず「こら!」と叱りつけると、掛け軸がぱたりと落ちた。手は消えていた。
今でも時折押しているのを見かけるが、掛け軸が落ちると絵が傷むので叱るのはやめた。