超短編『神隠し』

夕暮れの道。
止まりなさいと母が呼ぶけれど、先を往くこの方が手を引いてゆくので少しも自由になりません。
お待ちなさいと云い乍ら、追って来ようとしないのは何故でしょう。
真っ赤な夕焼け空が道の先に。後ろに長く長く伸びる影がひとつ。
赤く照らされた道に、ゆらゆらと、揺れている。
母の姿はとうに見えず、ただひたすらに夕暮れの道を往くばかり。
もう、随分長いことずっと。