超短編『目撃者』

いくらでもいける、いくらでもいけると云い乍ら男がぐるぐると回っている。目は回らないのか、同じ点の上で独楽のように回転している。両手を広げ回転している。見ている方が目を回す勢いで回転している。頭の芯がくらくらしてきて、周囲で男を見物していた人たちは皆、自分たちが少し顔を仰向けていることには気づかない。男は回転しながら、それはいい笑顔を見せていたので、皆その男の顔に気を取られていたのだ。その場に居た、五歳になったばかりの少年が、男が宙に浮いていることに気がついた唯一の目撃者となった。