超短編『夜空』

深夜、雷が鳴り出した。
雨の音は聞こえない。
窓から外を見てみると、暗い夜空に分厚い雲がかかっていた。
雲の中が鈍く光る度に小さく雷鳴が轟く。
時折、空全体に鋭く閃光が走る。その時の雷鳴は、光同様に激しく重々しかった。
しばらく見入っていると、何かが引っ掛かる。
空全体が鋭く光る時、雲の切れ間から何かが見える気がするのだった。
幾度目かの鋭い稲光の後、目を凝らして見ていると、突然それは雲の切れ間から姿を見せた。
小さな龍に見えた。
龍は身をくねらせ、手だか足だかをバタバタさせている。どうやら必死に何かを掴もうとしているようだった。
すると、もっと大きな手だか足だかが、雲からぬっと突き出され、小さな龍の身体を掴むとすぐに雲の中へ引き上げて見えなくなった。
一連の出来事の後、すぐに雲は散り始め、嘘のように満天の星空が広がった。
最初から、何もなかったように澄ました空だった。