超短編『シャープペン』

これ、芯が出ないんだよね。と、彼女がさっきからずっと、シャープペンをカチカチ鳴らしている。どれ?貸してごらんよ。と言うと、ちょっと、待ってね。と答えてカチカチカチカチ。
そんなじゃ駄目だよと言うと、シャープペンの、芯を入れる方のキャップを外して、後ろにくっついている小さな消しゴムも外して、振る。長いまっさらな芯が二本、スパスパと飛び出してくる。テーブルに二本の芯が転がっている。それから、またカチカチカチカチ。ねえ、ほら貸してみなよと手を出しても、彼女はうん、と生返事。今度は、シャープペンの先の円錐形の部分をくるくる回して外す。芯が詰まってるんだよ、そこの、ほら、今外した先のところにさ。手は出さないで口を出すと、彼女はようやくこちらを見て、うん。と答える。
で?と、彼女が言う。その先のところから、折れないように芯を挿して。彼女は、指先が黒くなるのも気にせずに、落ちた芯の一本をつまみ上げると、言われた通りに作業する。真剣な眼差しだ。折れて詰まっていた芯が、反対側からぽろりと落ちる。簡単だろ?と言うと、簡単だね。と彼女が笑う。笑った彼女のまつげに見とれていたら、挿した芯がぽきりと折れた。