短編『うさぎ君』

うさぎ君とは、ついこの間友達になったばかり。
長い耳は左右に垂れていて、空中に向かって鼻をひくひくする様子がとてもキュートだ。
わたしがくしゃみをすると、わたしの方を見たまま固まってしまうのが困ったところだった。
今日は初めてうさぎ君を家に招待した。
うさぎ君をもてなすためにサラダを作っている途中でドアチャイムが鳴り、わたしは走って行ってドアを開く。
うさぎ君は少し緊張した面持ちで立っていた。
「ようこそ、うさぎ君。さあ、上がって。」
うさぎ君はきょろきょろしながらわたしの後ろをついて来る。居間へ案内すると、ソファを勧めた。
「そこのソファに座ってくつろいでいてね。今、サラダを作っているからすぐに持ってくるね」
うさぎ君はきょろきょろしながら頷く。
キッチンまで行きかけて、そうだ!と思い付いて居間に戻る。
「そうそう、気になるところは見てもいいよ、退屈ならテレビを見てもいいし、雑誌も好きなのを見ていいよ。部屋の中を歩いたり、体操したければしていいからね」
うさぎ君は安心したようにソファから飛び下りると、部屋の隅々を移動しはじめた。
サラダを持って居間に戻る頃には、うさぎ君も落ち着いた様子でソファに戻っていた。
サラダはシロツメクサとキャベツとニンジンとかぶの葉のサラダで、レタスは苦手と聞いていたから入れなかった。
うさぎ君は早速サラダに取り掛かる。野菜がどんどん口の中へ消えて行く。
シロツメクサの茎はポキポキ短くなって、最後に花が口元で揺れている。
思わずうさぎ君に抱き付きたくなってしまったが、思い止どまる。いくらなんでも、出会って間もない友達にいきなり抱き付いたら、びっくりするだろう。
けれど、二回目に口元で花が揺れた時に、やってしまった。
うさぎ君は驚いて、ソファから飛び下りると、足で床を叩く。
どどどどどん!
叩いてから、ふたりで我に返った。
「ごめん、うさぎ君。今のは親愛の表現だったけど、やりすぎだった。気を悪くした?」
うさぎ君はソファに戻って来て、なんだか笑いながらサラダの続きに取り掛かる。
わたしもサラダを食べる。お詫びにわたしの分のシロツメクサをあげたら、また茎をポキポキ短くして、花を口元で揺らして見せてくれた。うさぎ君のおかげで、和んだ空気が戻ってくる。
おなかがいっぱいになると、なんだか眠くなって、うさぎ君とソファに寝転がって向かい合わせで昼寝をした。
わたしが先に起きたけれど、もうそろそろ帰る時間だよと言い出せないでいる。