超短編『かわろ』

数日前から声がする。足元から声がする。
今日その声に返事をした。
かわろ、かわろと言うからには、きっと深く思うことあってのことだろう。
返事は短く、かわろと言った。
その瞬間、僕の影は僕になり僕は僕の影になった。
光は僕に射し、影の僕は僕の影を地に写す。真っ黒に。
それでも僕らはそれほど変わらなかった。僕と僕の影の本質にはそんなに差がないようだった。
僕が歩けばどこへでもついて行ったし、僕が眠れば一緒に眠った。影の身の上は楽しく、人の身の上を忘れそうになる。
だから影の僕は、僕に声をかける。


かわろ、