超短編『風景画』

 昔、友人の画家の男が言っていた。
 風景の中を、ただ渡って生きて行けたらと思う。毎日、風景として日を送る。組み込まれた日常はすべて絵になり、広い展覧会場へ飾られるのを絵の中から見てみたい。
 それは、気難しい彼の、比喩的な表現だろうと思っていた。
 ひと月前に展覧会の案内葉書が送られて来た。ずっと連絡も取っていなかったのにと嬉しく思い、会場まで足を運んだ。
 彼が描いたという、広い展覧会場の壁を一面覆うほどの大作が今、目の前にある。その広大な風景画の中央に自画像が描き込まれている。
 これを描いた画家は、この作品を最後に行方不明になったと聞かされた。
 ここに描かれた人物は果たして、と、なかなか絵の前を離れられずにいる。