超短編『まちあわせ』

 暗い門の前に、立って、待っている。兄と、待ち合わせをしたのだ。
 夕暮れ時と言ったのに、夜になっても現れない。忘れ去られたように、ぽつりと立っている自分がみじめになり、それでも、待っている。
 門の影から、そっと兄の声が聞こえた。
 水を汲んできてくれと言われ、門の奥にある水道から小さな手桶に水を汲んで戻ってくると、桶は空になっている。こぼれた跡もないけれど、空になっている。
 もう一度、水道へ戻って水を汲む。桶の中には水が満ちている。
 けれど門のところへ戻ると、また桶は空になっている。
 兄さん、お水がね。どうしてもなくなってしまうよ。
 門の影にいるはずの兄からはなんの返答もなく、途方に暮れる。
 それから急に、ああ、兄は死んでしまったのだったと思い出す。
 水道の方から、祖父が呼ぶ声がする。
 けれど、どうだったろう。祖父も死んでしまったはずなのに。
 暗がりの奥の静けさの、なんと騒々しいことだろう。