超短編『這い回る蝶々』(500文字の心臓参加作品)

 小さくてんてんてん、蜜の痕。
 指で辿るとべたべた繋がるのが愉快で、お父様ともお母様ともお兄様ともはぐれてしまったのに、もうずっとずっと蜜の痕を追いかけている。
 おなかがすいたら手についた蜜をなめて、ぺたぺた蟻のように這い回る。
 頭には、お兄様に結んでもらった赤いふわふわのリボンが蝶々のように揺れている。
 いつからいたのか、大きな大きな袋を持った男のひとが前に立っていて、蜜はそこまで続いている。
 小さくてんてん、蜜の痕。