超短編『思い出し笑い』

 なにをどうした具合でか突然、過去にあった瞬間的に面白かった出来事を思い出し、その可笑しさを口を閉じてやり過ごそうとしたら、思い切り鼻から飛び出してしまったので、一体何を思い出したのかさえ忘れてしまった。
 鼻から空気と一緒に、むふんと飛び出して行ったそれは、電車の中だったので向かいに立っていた男性の方へ、くしゃみよりは随分遅い速度で飛んで行き、すぽんと鼻へ吸い込まれる。
 すると、その男性は突然に何か面白かったことを思い出し、ひとり、吹き出している。
 ああ、思い出し笑いというのはこうして、どこからともなく、すっ飛んでくるものなのだ。