超短編『かじかんだ手』

 桜の木が、開花する間近になるにつれ、幹に、うっすらと色を蓄えている。
 その艶めかしさと、春らしい初々しさが、まるで恋人のようで、幹に手を伸ばさせる。
 木肌の感触が、かじかんだ手を温めるようで。


 風邪などひいていないですか、春はもう土の中を満たしております。


 冷たいだろうと思っていた土の中から、そんな便りが届いたような気がする。