超短編『煤』

 ある怪談の本を読んでいると、いつの間にか本を持っていた両手が真っ黒になっている。
 びっくりして良く見れば、煤けている。
 手を洗いに洗面所へ行き、水道の蛇口をひねろうと手を伸ばして、また驚いた。
 煤などどこにもない。本のインクの汚れすらない。
 癪だったので、そのまま丹念に両手を洗った。