超短編『どすん』
どすん、といえば何か重い物が地面などに落ちて来た時の音ということになっている。
その音が、唐突に頭上で聞こえた。
咄嗟に身を屈めてみる。音が聞こえた時点ですでに落ちているのだからどうしようもないはずなのだが、音のわりに何の衝撃もない。
なんだ、どこか別の場所で鳴った音が、頭上で聞こえたような気がしただけか。
気を取り直して歩き出す。しばらくすると、また、どすん。
近所で工事でもしているのだろうか、高層マンションとか、ビルとか。
それとなく周囲を見回してみるが、それらしきものは見当たらない。
今度は、いつ聞こえるかと身構えながら歩いた。
あ、猫だ。と気を取られた瞬間、どすん。
実害はないが、あまりいい気持ちはしない。
時折聞こえる、どすん、という音のせいか、会社の近くにある新築ビルの工事現場を無意識に避けて歩いていた。
工事現場のある側とは反対側の歩道を歩いていた時、上の方から「危ない!」という叫び声が聞こえて足を止めた。ちょうど撤去作業をしていた足場の鉄板が一枚、工事現場の前に置いてあったセメントの袋の上に、どすん、と垂直に落ちてバウンドし、歩道の上で派手な音を立てた。いつもの通り向こう側を歩いていたら直撃するところだった。