超短編『夜の川』

 夜の空気も大分、春らしくなり、刺すような冷たさはない。
 仕事を終えて、家までの道を辿る。
 橋を渡る。夜の川は、黒く、どろりとしている。
 上流から何か白い物が流れて来るのが見えた。
 タオルか何かだろう。と、見当をつけて眺めていると、真っ白い、非常に整った顔立ちの女の人が、川面を滑るように流れて行く。
 誰かが流されている、助けなくては。とは、とても思えなかった。
 あまりにも真っ白で、平面的だったからだ。
 女の人は、そのまま川下に、滑らかに流れて見えなくなった。