超短編『暗い』

 探されているけれど、どこにもいないのは知っていた。
 ここにいるけれど、最早どこにもいない。
 自分の足が見える。
 手も。
 お前の旋毛はこんなに後ろにある。
 旋毛を押すとどうなるんだっけ。


「やめろよ」
 僕が言うと、兄は肩先に静まり返った。
 ずっとぶつぶつ何か言っていたのに。
 暗いって言って、それきり。