超短編『夜の闇の内側』

 暗闇で目が覚めた。
 時間の感覚がないまま、慣れた感触の掛け布団の手触りだけがやけに明確に感じられる。
 それにしても、何故こんなに暗いのだろう。普段なら固定電話の小さな緑色のランプが見えるはずだ。停電しているのだろうか。それとも、寝相が悪くていつもと違う方を向いているのだろうか。
 周囲を見回そうとした時、掛け布団の上で、何かがもぞもぞと動いた。
 はっとして掛け布団を見ると、自分の左腕が布団の上に乗っているのが見える。
 なんだ、驚いた。自分の腕か。そう思って、はっとする。真っ暗で見えないはずなのに。
 そう気付いた途端、腕は、すうっと布団から降りて見えなくなった。
 慌てて起き上がり、電気を点ける。自分の腕はちゃんとあるべき場所についているし、部屋のどこにも余分な腕はなかった。