『その他の物語』

 船のゴミ捨て場はひどい有様で、それでも、無機物しか捨てられていないのが救いだった。
 螺子とか、よく分からない鉄屑なんかがごちゃごちゃと放り込まれている。
 客なのか、中年のよく肥えた夫人が、無造作に紙袋を放り捨てるのに出くわした。紙袋は全部で三つ。てのひらで包める程度の大きさだ。
 ひとつを拾い上げてみると、がさごそと動く。咄嗟に取り落としてしまった。
 別の紙袋を、おそるおそる開いてみると、細い爪のようなものが指をつかむ。刺さるほどではないが、ちくりとする。
 紙袋の中には、目の大きな、見た事もない小さな猿のようなものが入っていて、捨てられた生き物の必死さで手にしがみついてくる。
 手ですくい上げると、その生き物は大人しくじっとしている。いつの間につかんだのか、ゴミ捨て場に落ちていた螺子を、細い指でつかんでかりこりとおいしそうに食べている。
 その指をよく見ると、針金でできている。顔は、メガネザルみたいだ。毛もあるけれど、かなりごわごわしている。まるでタワシのようだ。
 他の二つの紙袋にも、こんなのが入っているのだろうか。ひとの気配がしたので、紙袋を拾い、袋から出した一匹には螺子をいくつか渡してその場を離れた。

 船を降りて、電車に乗り換える。
 小さな田舎町へ向かう電車だ。途中で雨が降り出した。大変な大雨だ。
 線路は高いところを走っているからなんとか終着駅には着いたが、どこもかしこも水に沈んで、まるで見た事もない町になっている。
 駅でぼんやりしている間に、猿も紙袋もみんなどこかへ行ってしまった。まだ中を見ていなかったのに。
 かろうじて水没していなかった高い塀を伝って家へ向かう。
 僕の家は丘の上にあって、なんとか無事だった。窓を開けてみると向かいの家の小麦畑が水田のようになっている。
 その小麦の黄金色の上を、小さな影が三つ、走り回っていた。