『いつか橋の上で』より

「ほらあの『共同募金』てやつ。募金すると色のついた羽根をくれるじゃないですか。赤とか」
「緑とかな」
 と僕が言うと、津田は我が意を得たりというように大きく二度頷く。津田は真っ赤なセーターを着ていた。
「私が言いたいのは、あの羽根はなんなのかってことですよ」
 なんなのか。と馬鹿みたいに復唱すると、津田はやけに鋭い視線を僕に向ける。
「何も考えないで、人の言った言葉を繰り返してる場合じゃないんですよ」
 僕は、それをこれから考えるところなんじゃないか。と反論した。
 津田は、そうか、それは私が性急すぎました。とすぐに謝る。
「にわとりの羽根なんじゃないの?食べてるやつの」
 咄嗟に思いついた事を口にする。津田はまた睨む。
「そんなことは知っているんですよ。不要になった鶏の羽根を染めているんです。アメリカの真似なんですよ。アメリカは、水鳥の羽根を使ってたみたいですけど」
「何がそんなに気に食わないの?いいじゃん、助け合いましょうって精神は」
「いいんです。いいんですけど、そこでなんで羽根ですか」
 力説する津田の胸に、赤い羽根がくっついているのに気がついた。なんでって僕に聞かれても困るのだが。
「鳥が飛ぶような精神でってことなんじゃないの」
「意味が分かりません」
「たつとりあとをにごさず…とか」
「その言葉の意味分かって言っていますか?」
 結局何を答えても睨まれるので、僕はもう何も答えずに、川面に目を向ける。冬に近い秋の風は、すっかり冷たくなっている。
 津田もそのまま何も言わなくなり、名前の分からない水鳥が、小さく、があ。と鳴く声だけが、風に乗って聞こえて来た。