超短編『黒い羊』

 羊のやつは、今日も黒い顔を窓枠に乗せている。ビロードのような瞳はしんと深い夜の色。顔や手足だけでなく、もこもこの毛まで黒い。羊は笑わない。部屋の中には青ざめた水の匂い。羊の目に映った空は暗い色。その丸い空を見る。丸い空に鳥が泳いでいる。羊がゆっくりと目を細める。空が半分になる。羊の目の前で、手をぱちんと打ち鳴らす。羊は驚きもしない。なぜなら、顔も手足も毛も黒い羊には心がないのだそうだ。なら、そうだな。羊の真っ黒なもこもこの毛を、真っ白に染めてやれば驚くだろうか。もしかしたら笑うかも知れない。
 けれども、黒い毛を真白く染めることができる染料が見つからない。

(「500文字の心臓」参加作品)
○1 △3 ×3