超短編『豊穣の国』

遠い西の国に、夕焼けを追いかける日があるのだという。
秋の特別な一日
黄昏を知らせる鐘を合図に丘を駆け上がり、まっすぐに西へ西へ。
その勢いに、金木犀の花が舞い散っても止まらずに。
西へ西へ。
やがて景色はひらけて、空をぐるりと見渡せる場所へ出る。
夕焼けに間に合った者は、その、黄金、茜、紺碧色のグラデーションの空と、ゆっくり地平に沈みつつある太陽、足下の草を鳴らす風を与えられる。
その証に、銀杏の葉を一葉持ち帰り、額に入れて飾ったり、大切に箱へ仕舞ったりするのだという。

その国がどこにあるのか、まだ探し続けている。