超短編『白い紙』

 夢のように静かな街をあなたは歩いている。
 賑やかなはずのショッピングモールには誰もおらず、アスファルトを割って草が生い茂っている。
 乾いた風が、草をそっと揺らす音しか聞こえない。
 高すぎてなかなか買えなかったマイナーブランドの洋服が、すっかり忘れられたまま日に褪せている。
 あなたは状態の良い気に入ったデザインの洋服をいくつか選び、試着室で着替える。鏡をのぞいてにっこりしてみた。
 良くお似合いですよ。そうね、気に入ったから全部頂くわ。まあ、ありがとうございます!
 同じショッピングモールの行きつけのカフェにはコーヒー豆がたくさんあるけれど、それを挽いて入れてくれる人がいない。
 コーヒーはいかがですか?ええ、ごめんなさいまた今度。またのご来店お待ちしております。
 駅へ続く通路は広い。がらんとした空間には、等間隔で街路樹が植わっている。
 遠くフェンス越しに線路が見えるが、動くものは何もない。
 どこかから飛ばされてきた真っ白な紙切れが、後ろからあなたを追い抜いて行く。
 あなたは高く舞い上がり、飛び回る白い紙を追って歩き出す。