超短編『犬』

 犬の幽霊に出会ったので、連れ帰って一緒に暮らすことにした。
 犬は、吠えもせず、食べもせず。なにしろ幽霊だから。
 犬小屋はあるけれど、首輪も綱もつけられない。だって、幽霊だから。
 繋がる場所がないので、幽かに明滅しているばかり。
 淡い光なので、まるで蛍のようでもある。
 美しい雲が流れて行くのを、見ているのだろうか。
 雲など、見られるのだろうか。
 もしも近くに、世界がなくても。愛がなくても。
 日はまた昇るに違いないと信じているのだろう。
 犬は、今日も庭に佇んでいる。尾も振らずに。