超短編『獄』
謂われなき罪状で投獄されたが、獄というにはお粗末で敷地から出られはしないが出ようとさえしなければ、どこに居ようが好きな時刻に好きなだけ昼寝をしていようが誰にも咎められない。
何を課せられることもなく、食事も豊富である。粗末というより豊かであった。
なんと居心地の良い場所であろうか。
誰もがみな笑って過ごしていたが、いつも桜の木の木陰に腰掛けて皆を眺め、浮かない顔をしている男が居る。
陰気な様子は近寄り難く、けれど気になって時折目を向けた。
ある日思い切って桜へ近づき、ここはこんなに居心地が良いのに、あなたは何故浮かない顔をしているのかと問うてみる。
男は首を振り、空を見上げ、地面へ顔を伏せる。
それきり動かないので立ち去りかけた。
「飼われている」
低く掠れた小さな声だった。
振り向くと、俯いたままの男の影が長く足下へ伸びていた。