2008-01-01から1年間の記事一覧
真夜中、何の前触れもなく、はっきりと目が覚めた。 寝起きが悪いためにあまりないことだった。訝りながらも、身を起こす。 すると、急に尿意をもよおした。もしかすると、これで目が覚めたのかも知れない。 ひとり苦笑いしながら、トイレへ向かう。 廊下の…
家の近所に、大きなガレージのある家がある。 夜、その前を通った時、ガレージのシャッターが半分くらい開いているのが見えた。 風のせいなのか、シャッターが、がしゃりと音を立てる。 音につられて、そちらに目を向ける。 ガレージの中は、空のようだ。 半…
熱が出た夜は、眠ると必ず同じ夢を見た。 夢とも、幻覚ともつかぬようなものだ。 暗くて、狭くて、ぐにゃりと長い場所を、いつまでもいつまでも通り抜けていく。 どこかに出る前に、必ず目が覚めた。 目が覚めると、しんと静まり返った暗い部屋。 天井が、う…
桜の木が、開花する間近になるにつれ、幹に、うっすらと色を蓄えている。 その艶めかしさと、春らしい初々しさが、まるで恋人のようで、幹に手を伸ばさせる。 木肌の感触が、かじかんだ手を温めるようで。 風邪などひいていないですか、春はもう土の中を満た…
昨日降った雪を少し集めて、雪兎を作った。 そこへ兎が通りかかり、僕が雪兎を紹介するより早く、ものすごい勢いで雪兎をつかむと、まるでボーリングでもするようなフォームで雪兎を吹っ飛ばしてしまう。 一体どうしてまた、そんなことを。と、言おうと思う…
兎の真似をして、誰にも会わずに本を読んで、あとは一日空でも眺めて過ごしてやろう。と、思い立つ。 でも、おなかが空いた時のために、マフィンを用意してみた。 マフィンだけをもそもそ食べるのも寂しいと思い、マフィンを食べる時にお茶が飲めるようにと…
誰にも会わずに、本を読んで、あとは空ばかり見ていました。とは、兎の台詞。何を読んでいたのか訊ねると、コクトーです。と答える。
僕の家に、ひとりで遊びに来た、隣の家の子猫が、あまりにも眠くてぐにゃぐにゃになっていたので、膝を貸してあげた。
兎と会話をした。 「ねえ、太巻きは食べましたか?」 「そういえば、食べなかったよ」 「わたしもです」
地下にある郵便局から兎に手紙を出そうと思う。けれど、地下にもぐる入り口が見つからない。
鳩が嬉しそうだった。 箒を持った若者が、せっせと豆を掃き出しているからだろう。
誰もが豆を撒こうと息巻いてる気がしてならない。 そんなはずはないのに。
何年も前の三月の始めに、テレビのニュース番組で波間を漂う猫の映像を見た。 猫は生きていて、泳ぎもせずにただ浮いて漂っていた。 それが何故ニュースで取り上げられたのか、どんな内容だったのか、何故猫をそのままにしておくのか、分からないことばかり…
無と戯れ、有と遊ぶ。 世、ほどなくして幻灯のまなざし。 戯れる相手はおらず、しとしとしと、しんと絡まる。 遊び相手に不足はなく、けれども彼の言うことにケレン無しとて。 よほどなくして、厳冬のまなざし。 無は無であればこそ、なにもなし。
因果のない世界でまばたきひとつ。 因果がないから空気抵抗がない、というわけでもないのに、やけに高速。 高速まばたき。
浦島太郎は、つとめて気にしないようにしていた。 文庫本ほどの大きさの小さな箱は、一昨日、彼女からプレゼントされたもので、一昼夜騒ぎ明かした竜宮城で家に帰ると申し出ると、うやうやしく手渡されたものだった。来た時と同じように、浜辺で子供たちにつ…
朝の通勤電車に乗り込む時、何気なく足下に目をやると、ホームと電車の隙間が広く開いている。 その隙間の開いているところに、ぴったりと人の顔が上を向いて、はまっている。 あまりにも現実感のある顔だったので、一瞬、本当に誰かがうっかり落ちて、はま…